ここ数日、風が強い。歩いているだけで飛ばされそうだ。ミストラルと呼ばれるこの風はとても冷たい。うちの前の大きなアカシヤの木も、きれいに黄葉してきたと思っていたら、みるみるうちに葉を落としている。今日はテラスに出ていたサボテンを急いで室内に非難させた。太陽の光に嬉しそうにしていた植物も風にはやられっぱなしである。ここの人たちは挨拶がわりに言う。「今日は風もなくて」[今日は風がひどくて」....小さい時、田舎の鹿児島に行くたび、人々がいつも桜島の灰を気にしていたのを不思議に思ったものだけど、それぞれの地域に、それぞれ避けられない自然とのかかわりがある。実家の埼玉では江戸川が近くにあり、大雨の降った翌日は土手のぎりぎりまで水が氾濫していたのをよく目にした。パリの天気は気まぐれで本当にしょっちゅう雨が降る。それでも鹿児島の堂々とした桜島はすばらしく立派だし、犬の散歩を毎日した江戸川の土手は私の故郷、灰色のぐずぐずした空はパリのシックな街並みを引き立てる。南仏の青空も、この風で常に大掃除されている故でもある。まるで完璧ということはないし、美しいものにはたいてい犠牲が伴うものです。