2014年11月13日木曜日

ピアノが好きじゃない





私とピアノを始めて6年目の女の子を
きのう初めて泣かせてしまった。

クールな優等生で言ったことはすぐにできるし
練習もたいていしてくる。

でもピアノが好きそうにはぜんぜん見えない。

小さい頃はそれでもピアノの絵を描いて来てくれたり
楽しそうにレッスンに来ていた。

それがここ2年くらい、発表会に何を弾きたい?と聞いても
長くない曲、とか難しくない曲、と
がっくりくるような答えしか返ってこない。
ジャンルを変えたり本を変えたり私もいろいろチャレンジしたのだけど
どんどん殻に閉じこもるようになってしまった。

話はあとで聞くから!というほど私語の多いフランスの子供達の中で
彼女とのシーンとした1時間のレッスンは
確かに内容は進んでいるのにいつも何か空しくなった。

そしてきのうのレッスン

ショパンのプレリュードを弾きながら小さなミスを繰り返すので、
私もイライラを抑えながら繰り返し同じ箇所を弾かせていた。

と、とつぜん

 っていうか(まさにそう訳したい言い方だった)
 私ピアノ好きじゃないし!

と肩を震わせながら呟いて、そのとたん大きな涙がこぼれた。

一瞬息をのんで

好きじゃないの?と聞いた。

 好きじゃない。パパがやめせてくれない。私はやめたいってずっと言ってるのに

どうして好きじゃないの?と聞くと

 なんの役にもたたないから

私は絶句した。そして


それじゃあやめたほうがいいね

と言ってしまった。

役にたたないって言われたのは初めてだなあ
私も悲しいよ 私も泣きたいよ

すると彼女は俯いてポタポタこぼれる涙を拭いた。

 先生のことは好きだし、ここに来るのが嫌だったんじゃないんです。
 でもピアノが好きになれない。どうしても興味をもてない。

それから私たちは長い時間話をした。
6年間ではじめて。

彼女のお父さんは小さい頃からピアノをやっていて
医学部に行きながらもずっと趣味でピアノを続け
お医者さんになった今もレッスンを受けている。

すごく真面目な努力の人だ。

気が向かないのを無理に続けなくても、という気持ちと
ここまで伸びたのにもったいない、たしかにやりにくい子ではないし、という
気持ちが私にもあって
見ないようにしてきたことが
こんな結果になってしまった。

すごく若い時、私自身ピアノをやめたいと思ったことは何度もあったし
もちろん親に反発もした。

でも私は音楽が好きだった。音楽の力を信じていた。
役に立たない
意味がない
と思ったことはなかったと思う。
彼女は6年ピアノを習って
この曲が好きとかこの部分がぐっとくるとか
感じたことが全くないんだそうだ。

迎えに来たお母さんに状況を説明しながら
やっぱりどうしても心がざわざわした。

本当にやめるの?もったいなくないの?と
聞くお母さんに彼女はそっぽをむいて頷いた。

いつか大人になった時
また弾きたくなるかもしれないし
もうならないかもしれない。

でも私はこの子のことを忘れないようにしよう。
今はまだ胸が痛むだけでまとめも思いつかないけれど
私にとっては大事な出来事だったはず。



‥こういう日もある。