2007年5月9日水曜日

修道院の音



毎週水曜日の午後はヴァンヴ市内の修道院の一室でピアノを教えている。
あと2ヶ月弱で南仏に引越すので、近頃ちょっと感傷的になっているのは本当だけど、
それにしても私はこの場所が気に入っていた。
重たいドアをあけると静かな薄暗い昔の図書館みたいな匂いがして、全く非現実的なのだ。
寒い冬の日に暖房がほとんど効いていなくて、コートを着て教えていたこともあった。
レッスンの合間や終ったあとによく自分の練習もした。
古いガボーのアップライトピアノがあって、いつ調律したのかしら。。というくらい
見事に狂っているのだけど、ひんやりとした鍵盤に指が吸い付くように落ちていって
やわらかい音が静かな空間によく響いて溶けていく。
時々お年のいったシスターがのぞきにきて、にこにこと「今の曲すてきね」などと
声をかけてくれる。その度に飛び上がる程びっくりした。それもまた現実ではないような
気がして。仕事を終えて外にでると今の季節は外の方が暖かく、一気にこの世に戻ってきた、
というように息をのむ。本当に毎回忘れていたかのように。