2017年9月28日木曜日

いいことなんか言うもんか



数年前とつぜん逝ってしまった
友人の
息子さんに会った。

明るくて優しくて
時には辛辣で
とにかくまっすぐな
イタリア人のパオラが
私も夫も大好きで

明日会えなくなるかもしれない、
という刹那の現実に直面した
あのショックは
ずっと抜けずにいた。

ちょうどその時私は
いつ出産してもおかしくない頃で
愛猫の病気も見つかり

とにかく混乱していて

お葬式にも出られなかった。

だから
それから数年たって
彼女の旦那様も亡くなったと聞き

パリに住んでいる
私たちと同年代の息子さんのことを
時々考えていた。

そして
急にその彼から連絡をもらい
近所の人たちと彼の実家に
昨夜集まることになったのだ。

仕事を終えて
懐かしい大きな庭に車で
お邪魔すると

5、6年前に一度だけ会った彼が
ありがとーーありがとー
来てくれて嬉しいよ

とぎゅうっとハグしてくれて

泣きそうになった。


あの日は確か
ものすごい寒波の日で
彼らの家の暖炉を囲んで
イタリア人の親子漫才を
聞いているみたいに
死ぬほど笑ったんだった。


昨日の彼は
感じの良い恋人と一緒で

こんなにいろいろなことがあったのに
やはり屈託無く
早口でよく喋りよく笑い

あのふたり
まったくどうかしてたよ

と、辛口で次々に両親の
思い出話をしながら
目が優しみと哀しみに満ちていた。

例えばパオラの美味しすぎた
ラザニアとか
いつも褒め上手だったこととか
絶対みんな思っていたのに

いいことなんか言うもんか
というふうに

次々に笑い話を繰り返す彼に
みんなが付き合っていた。


家に帰って
しんみりと夫と言った。

あの話し方
パオラにそっくりだったね
彼女がいたソワレみたいだったね

思えば
彼女が逝ってから
うちには
子供が産まれ

日々のリズムはすっかり変わって

前みたいに
年齢も国籍も違う近所の友人たちが
気ままに集まることは
グッと減っていた。

懐かしいパオラ、
今日あなたと同じ瞳に会いましたヨ。

私もママンになりましたヨ。