2008年3月27日木曜日

言葉は魂


外国語は頭の中で訳さずにそのままのニュアンスで覚えるべきだと
思っていた。
日常会話はそのほうがずっと早い。
そして時々通訳の機会があると
原語との違和感をよく感じた。
言葉をそのまま訳したって
それを言わせた
感情まで伝わるものではない。

ところで久しぶりにソプラノ歌手のオードとの
コンサートのためにフランス歌曲をさらっている。
そして歌詞を今までは原語のまま捉えていたのを
ふと思いついてひとことひとこと
訳してみようと思ったから大変だ。

これは今フランス語の児童書を少しずつ
ノートに訳していることから思い立ったのだけど、
ぴったり当てはまる言葉というのは
なかなかない。それで思い切って別の言い方をしてみたり
すでに出ている日本語訳を探したりしているうちに
日本語の美しさに
あらためて驚いた。
たとえばこれは有名な例だけど
ボードレールの[l'invitation au voyage]
そのまま訳せば旅への招待、これを
堀口大学は
『旅へのいざなひ』と訳した。
だいたい詩人というのは言葉の選択者なのだろうけど
それにしてもすごい。
言葉一つで世界がぐらりと揺れる。
[ペンは剣に勝つ」といったのは
大江健三郎だったと思う。

そして伴奏する時には音符と歌詞を同時に見て
瞬時にイメージを湧かせなくてはならない。
その時楽譜から飛び込んでくる日本語の、
心にまっすぐ入ってくるスピードは相当早い。
一つ一つの文字が意味をなさないアルファベットに比べて
それ自体が記号である漢字のせいも
あるだろう。

言葉は魂。

時々こういう発見をしては
興奮している。