2008年5月26日月曜日

あれは一体なにが光っていたのだろうか


椎名誠というと日に焼けた肌に
白い歯のまぶしいアウトドアな作家、
というイメージがあって
恥ずかしながら、そのためだけに
私は今まで読んでみようとも思わなかった。
自分とはかけ離れた世界を語るのだろうと
勝手に想像していたのだ。
そんなわけで
以前、読書家の友人に
たくさん本をもらって、そのなかに
いくつも椎名誠の本があったのだけど、
なかなか手に取れずにいた。

ところが。
予想外にみごとにはまってしまって、ここ数日
彼の本ばかり読んでいる。
特にこの『白い手』という小説は
すごくすごくよかった。

もともと私は子供時代を題材にした大人の小説というのが
大好きなのだけど、
それがどうしてなのか、
この本を読んですんなりと
わかった。

例えば、冬休みに少年達がお小遣いをもって
そば屋にいくシーン。そば屋では
明星とか平凡といった大人の雑誌を
読むことができる。

「三人で黙りこんだまま片目で雑誌を、
片目でそばを見ながら必死になって充実したときをおくった」

必死になって充実したときをおくった!

そしてあとがきに

「どうもその頃、ぼくのまわりにはいつもなにかがキラキラしていた。
あれは一体なにが光っていたのだろうか」

とある。
ああそうなのよ、と私はひとりで強く頷いてしまった。
別に子供時代に帰りたいわけではない、
大人の方がずっと自由で楽しいし。
それでもあの頃は、なんというか
確かに世界が今とは違うふうに見えていたし、
学校という小さな社会で
自分の与えられた役を
皆それぞれに精一杯こなしていたように
思う。一度役がついちゃうと、そこから抜け出すのは
なかなかしんどいのだ。

だから私はよく子供の頃や思春期の頃を思い出すと
当時の自分がイタタマレナイような気持ちになる。
大変だったね。と思う。
それでも、そういう自意識があまりなかった、
またはありすぎたからこそ、
その必死さの向こうで世界は「キラキラ」していたのかもしれない。

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